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天然ではじめてのアジリジン誘導体
 

 アジリジン誘導体、3,3-dimethylaziridine-2-carboxylic acid (1) が天然にはじめてスギヒラタケで発見されました。 しかも、それが微量に存在するのではなく、大量に含まれていたのはさらに驚きです。

 スギヒラタケの化学成分は既に研究されていました。 そして、非タンパク質性のアミノ酸、3-Hydroxy-L-valine (2) が大量に存在することが報告されていました。このアミノ酸はスギヒラタケにだけ見出されました。 この度、新たに分かったことは、スギヒラタケに存在しているのは、 3員環のアジリジン骨格を持つ化合物(1) であり、このアミノ酸(3-Hydroxy-L-valine (2)) はその分解物であったのです。

 窒素原子一個と、炭素原子2個からなる3員環のアジリジンは有機化学の分野では教科書になくてはならない程、基本的な化合物です。 それもあって、この天然で新規に発見された、3,3-dimethylaziridine-2-carboxylic acid (1)は既に化学合成がされていました。 

sturucture of compounds

加熱、沸騰で無毒化される
 

 上の図に示したように、この化合物、3,3-dimethylaziridine-2-carboxylic acid は3員環です。3員環はベンゼン環でおなじみの6員環よりも不安定です。不安定とは、化学反応を起こしやすいことです。化学反応して別のより安定な化合物になります。この化合物は窒素と炭素との結合が2本ありますが、加熱すると、いずれも切れやすいものです。特に、3-hydroxy-L-valine を生ずる結合の切れ方がより起こり易いと言えます。そして、この反応は水の pH (水素イオン濃度)が酸性の方がアルカリ性の場合よりも起こり易くなります。普通の水道水を使って、このスギヒラタケを加熱すると、沸騰時間に応じて、結合が切れます。 1分程度の沸騰では完全には切れないようですが。

 酸性から中性領域で加熱すると結合は切れるのですが、アルカリ性が高いと加熱してもほとんど切れません。

 ヒトの胃袋内は pH が 2 以下と言われていますが、体温程度の温度ではこの酸性でも結合は切れません。 従って、この化合物はヒトの胃袋内でも分解せずに通過でき、腸に達すると考えられます。 この化合物がヒトの腸で血液中に吸収されるかどうかは不明ですが、吸収されるとして、議論を進めることは許されると思います。

 この化合物はそもそも不安定で化学反応し易いので、血液中に取り込まれると、肝臓で分解される(3員環が切れて、切り口の一端に例えば、硫酸基が結合するとかして)、あるいは、そのまま腎臓から尿中に排泄されるなどの解毒が行われるまで、細胞の種類を選ばずに、心臓の筋肉でも、末梢神経でも、そして、肝臓、腎臓自身にも害作用をすると考えられます。 

アジリジン誘導体とスギヒラタケ脳症
 
 血液脳関門

 この化合物が脳内に達することができるかどうかが注目されます。 一般に、食べ物から吸収した成分が勝手に脳内の髄液や細胞(神経細胞やグリア細胞)に入り込めないようになっています。例えば、旨味成分であるグルタミン酸は脳内の細胞内にはほとんど取り込まれません。 スギヒラタケのアジリジン化合物がこのような制限「血液脳関門」を突破して通過できるかどうかです。 この化合物は酸性側では窒素原子のほとんどがプラスにイオン化した状態、アルカリ側では逆にほとんどイオン化していない状態の2状態で存在しています。 ヒト血液の pH = 7.3 付近では両者が混在しています。 「血液脳関門」を通過するには、イオン化していない分子の方が関門をくぐり抜ける可能性が高いと判断されます。 実際にくぐりぬけているかどうかは明らかになっておりませんが、この窒素原子がイオン化していない分子の存在が「血液脳関門」を通過するかも知れないとの推測の根拠の一つとなっています(カルボキシル基はマイナスにイオン化しています)。

 体内(血液中)に入ったこの化合物はそもそも不安定なので化学反応し易く、解毒がすみやかに行われないと体内を血液に乗ってめぐり、一部が脳細胞に入る可能性があります。 ひとたび、脳細胞内に入ってしまうと、透析しても出てくる確率は少なくなります。 晩ご飯時にこの化合物を摂取した場合では、翌日に透析しても、夜中の寝ている間に脳細胞内に入ってしまうと思われます(もちろん、解毒が行われない場合です)。

 脳細胞内に入ったこの化合物は体温ではゆっくりとしか結合が切れません。 しかも、細胞内の pH が 7.3 付近なので、この点からもさらにゆっくりとなります。 この化合物の結合が切れて、何らかの細胞内分子と化学反応し、それが細胞にとって害作用となると推測されます。 その反応がゆっくりなのが、この脳症の特徴とされる発症までのタイムラグを説明しています。

 脳症を示した方々の腎機能の低下が指摘されています。この化合物の解毒が肝臓ではなく、腎臓で行われるのであれば、説明になります。 しかし、どうしても、腎臓での解毒を推測する根拠が見出せません。 この点は今後の課題として残ります。 
 以上のように、仮定の多い推測ですが、このアジリジン誘導体がスギヒラタケ毒の本体であるとの仮説は検討に値するであろうと思います。 

( T. O.)

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リンク

日本菌学会大会(2006年)

日本菌学会大会(2006年)  ポスター発表要旨(English)

新潟県山北郡で製造されていたスギヒラタケの缶詰

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